お知らせ
漢字の医者、ひらがなの患者
2009.07.01 [ 井林院長MonthlyTale ]
090701 7月朝礼訓示 #0907
北部九州の今朝は、昨年の夏を思わせるゲリラ集中豪雨で、主要道路までもが水浸しで、歩行者やバス通勤の方々は傘も一向に役に立たずズブ濡れ状態でお困りの様子でした。6:40 に自宅を出て、いつもよりも 5 分ほど余計に時間をかけて 7:20 には病院に着きましたが、外来患者さんや面会の家族の皆様方はさぞかし大変でしたしょう、、、ご苦労様でした。
今日は、入退院紹介/新患回診の後、回復期病棟1病棟の総回診でしたが、ナースステーションの前には早くも、大きな笹の木が準備されておりました。七夕には皆さんどのような願い事を書かれるのでしょうか?『リハビリが上手く進んで、元通りの身体に戻れますように、、、』といった内容がきっと多いのではないかと愚考しますが、果たして今の自分がたった一つ願い事をするとすれば一体何を書くでしょうか。一見、未だ大丈夫、健康だろうと浅はかにも思い込んでいる自分には、とるに足らない実に下らない事しか思い浮かばないもので、少し情けなくなります。
さて、それこそ昨日は、自称「大阪生まれのオバハン」と名乗られるタレント(ホンマに多彩な才能をお持ちでした)の綾戸智恵さんと、脳卒中リハビリ談義よろしくとても貴重な対談をさせて戴きました。きっかけは、ある脳卒中関係の小冊子の編集委員の一人として、脳卒中に関心がおありの著名人を相手に対談・インタビューするという企画の順番が回って来たのでした。後日、また何かの折に当院のホームページにでも詳細な記事をご紹介したいと考えますが、お話のテンポが実に小気味よく、またお上手でいらっしゃる上に考え方もストレートかつ豪快、それでいて細やかでチャーミングな部分が多々おありの素敵なオバハン(失礼!)でした — 決してオバハンには見えませんでしたので、念のため(次ページ写真)。4年ほど前に、誰よりも彼女の理解者であったお母様が当時78歳で脳梗塞に倒れられて、その後も綾戸さん独自のアイディアを取り入れたユニークかつやる気の出るリハビリを続けながら、現在の介護制度やリハシステムの違和感に翻弄されつつも、全国ツアーには必ずお母様をご一緒に連れて回られたご苦労話(御本人はそう思ってらっしゃらないと思いますが)や、最後にはどうしても「母と向き合って2人で、心も含めたリハビリをやって行くしかない」と腹をくくられ、昨年からは一切仕事ができないようにと自らバリカンで剃髪しご自分を鼓舞しながらコンサート活動を遂に休止し、家族にしか出来ない心身両面のリハビリ生活にそれこそ真剣にドップリと浸かり取り組んで来られたご様子でした。「お医者さんは、とかく“漢字”で語りかけるが、患者さんには“ひらがな”で語らんといかんのよ」 — つまり、わかり易く、そのヒト/ヒトの目線に合わせて接する事が何よりも重要と言うことでしょう。リハビリのご褒美に一緒にビールを飲む、美味しい中華を食べに行く等々、、、人間、楽しい事や目的がないとただ辛くてキツいリハビリは続かないだろうし、個人的には良いのではないかとついつい共感してしまいました(リハ病院の院長発言としては失格でしょうね、、、相澄みません)。
福岡に戻る機中で、早稲田近くのホテルでの対談を想い出しながら、音楽(Jazz)コンサート活動もリハビリテーション医療も一人ではまず成り立たない、色んな共通点があるのだと気付きました。どちらもチームワークがあってこそ成り立つもので、それぞれのパートの専門家が出しゃばり過ぎずに、抑えるところは抑えて得意なところは十二分に受け持って、また患者さん達もそれぞれ生まれも育ちも価値観も皆さん違うのだから、マニュアル通りの一辺倒ではなく個々人に合わせた独自の工夫や楽しい要素をアドリブでも良いから適時組み入れて、一人で塞ぎ込んだり何でも背負ってしまわないようにする環境づくり、そして何よりも家族の愛情が一番大切であるという当たり前のことを改めて考えさせられた一日でした。
『まいど!』の綾戸さんと:H21年6月30日 椿山荘にて