お知らせ
便利なtool;飛べないテントウ虫と胃瘻造設
2012.07.02 [ 井林院長MonthlyTale ]
120702 7月朝礼訓示 #1207
飛ぶのが苦手なテントウ虫を掛け合わせる方法で、飛ばないテントウ虫が誕生したそうです。テントウ虫が害虫アブラ虫の天敵であることを利用し、沢山集めてイチゴ栽培ハウスなどに放し害虫駆除する試みは知られていましたが、時間が経つと飛んで逃げて行ってしまうのが難点でした。そこで今回、飛ぶのが苦手なナミテントウの個体を選び、交配する作業をコツコツ繰り返し、3ないし4年かけて20~35世代目に漸くテクテクと歩くだけの飛べないテントウ虫が誕生したようです。人間とは罪深く、何と都合の良いtoolを勝手にしかも平気で造ってしまうのでしょうか。しかし、時間こそ要するでしょうが、自然界もそう甘くはありますまい;そのうちきっと羽が生えて自由に飛び回れる、アルマジロの如き堅鎧を身に纏った、「新型最強アブラ虫」が必ず誕生しそうな予感がしています。
先週は東京フォーラムで3日間、日本老年医学会の学術集会に参加しました。我が国も老齢化が進み「超高齢社会の老年医学」をメインテーマに、興味あるシンポジウム、演題が多数発表されていました。2025年には団塊の世代(1947〜51年生まれ)が75歳を超え、後期高齢者が一気に増加、自宅で亡くなるヒトは5%にも満たない、かといって介護施設も満杯でコネや予約なしには簡単に入居できず、おまけに看てくれる子供達それどころか介護職の若者自体も少な い、、、冗談抜きに日本は大変な時代に突入したのです。これから慌てて、各地に長寿者をターゲットとした健康幸福都市を造る計画や、居住地近辺で全てが事足りるコンパクトシティの構想など、夢ある話題提供もありましたが、現実的には到底間に合わないとの危機感を抱きました。今回の目玉は、過剰医療の見直し;特に意味のない抗生物質や多剤の乱用、介護施設に送るためだけの (語弊はありますが、、、)寝たきり老人の胃瘻造設の見直しなど、一つの学会やその集団だけでは決められない重たい内容も散見されました。今までタブー視される傾向にありましたが、無駄にみえる延命処置自体も、稀乍ら年金受給等に便利かつ都合の良いtoolにもなりうる訳で、複雑な社会問題をも孕んでおり、結構根が深い問題に発展しかねません。
僕らは「何のために医療を行っているのか?」。少々大袈裟な言い方が許されるならば、患者さんの人生・生涯を支えるための努力を怠っては行けないということでしょうか。患者さんは「病人」である前に「生活者」なのだという視点を忘れず、「治す医療」だけでなく「治し、支える医療」にシフトして行かねばならないと強く思い直した次第です。回復期リハでは、美味しい好物を口から食べることができる、親しい友人や可愛い孫やペットに会える、お見舞いメイルを貰ったりその返事を何かの形で返せる、自宅に帰ってもまた何時でも遊びに寄れる、そういった明るく楽しく人間らしく生活する場の多い病院ならば、大半の方々が入院したいと思うのではないでしょうか?至ってシンプルな理念;『自分が脳卒中で倒れたら入院してみたい病院』を目指してこれから一味違った工夫とともに、少し自由に飛び回りたいと思います。