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満たされない要望
2023.03.01 [ 長尾院長MonthlyTale ]
先日、天草で 1 泊して来ました。天草は何といっても魚がおいしいので時々訪れるのですが、そこで飛び込んだ海鮮居酒屋さん。地元の魚がきれいに並べられていて、「これはなんていう魚ですか?」などと大将と会話しながら美味しくいただきました。美味しい上にとても安かったので大満足だったのですが、それ以上に嬉しかったのは、メニューにない料理や調理法をお願いしたら、可能な範囲内で希望に沿って提供してくれたことです。
ここで私を喜ばせたのが何であったかを考えてみました。私が希望するものがメニューにないということは、それを店側が考えていなかったというだけのことかもしれませんが、何らかの理由で提供が難しい事情があるからかもしれません。そのような中にあってなお、客の要望になるべく応えようとする姿勢に好感が持てたのだと思います。
サービスを提供する側とそれを受ける側の要望がぴったり合うのが理想ではあります。しかし、現実には両者の間に乖離が生じることの方が多く、そのほぼ全てがサービス提供側の事情によるもので、客にとっては「満たされない要望」と言い換えることができます。組織が社会に受け入れられるかどうかを決定する要因の一つとして、顧客の「満たされない要望」をいかに埋めているかという視点があります。そもそもサービス提供側の事情で生まれたものですので、提供側がよほど前向きの意識を持たない限り、いつまでも「満たされない要望」のままで終わりかねません。「満たされない要望」の存在に気づくことが第一ですが、次の段階ではいかにそれを満たすかと考える姿勢が大切だと思います。
我が病院でも「満たされない要望」は山ほどあります。療養環境、院内 wifi、入浴回数、コロナ流行時のリハビリテーションなど、患者さんからの声は私にも届いています。その度に何とかならないか考えてはみますが、いつの間にか「やっぱり難しい」で終わってしまうことが多いのが正直なところです。しかし、それではダメなわけで、難しいからこそ何とかしなければならないし、少なくとも何とかする方法を考え続ける気持ちが必要なのだと反省しています。
「満たされない要望」は病院として解決しなければならないものも多いとは思いますが、職員個々の身近にも実はたくさんあるのではないでしょうか?職員の一人一人が、患者の小さな「満たされない要望」に応えたとしたら、病院全体では大変な変革となります。私も外来で患者さんを診察するときは、皆さんと同じ一職員となりますが、患者さんが自分に求めていることと自分が実践していることとの間にギャップがないかということは、常に気にかけておかなければならないと思っています。
「満たされない要望」について興味深いのは、必ずしも A という要望が満たされなくても、B や C という要望が満たされれば、顧客はそれなりの満足を得るということです。例えば、「この病院は随分古くなっていて、病室や設備が古いので、新しいものに変えて欲しい」という「満たされない要望」があったとしても、「ここの職員はみんな優しくて親切で、しかも技術力もしっかりしている」と感じることで全体としての「満たされない度」が下がるということです。病院を 1 日で立て替えることはできませんが、職員の優しさや親切さは意識さえ変われば 1 日で格段に向上させることも夢ではありません。そういう意味で、職員一人一人の質を高めることが組織として非常に重要です。とくに役職者の方々は、この点で一般職員のロールモデルとして日々リードしていただきたいと強く願っています。
私自身もまずは自分がきちんと挨拶をすることがスタートラインだと思いま すし、患者さんの「満たされない要望」に謙虚に耳を傾けて行きたいと思います。コロナウイルスには随分痛めつけられましたが、見方によれば、私たち自身を振り返る貴重な機会を与えてくれたとも言えるでしょう。このチャンスを生かして、誠愛リハビリテーション病院が大きく変貌することができるかできないか、今が勝負です。
長尾哲彦