院長職にあると、「病院の方針は何ですか？」とか「病院が向かう方向性を知りたい」などという質問や依頼を受けることが少なくありません。そんな時は、自分としてはいろいろな場で情報発信をしているつもりでも、実際に職員の皆さんに届いているメッセージはごくわずかであるとくことを思い知らされます。方針や方向性と言っても、「脳卒中と高齢者骨折を軸に、社会的ニーズの高いリハビリテーションを提供する」というような大局的なものから、「通所で〇〇というリハビリテーション機器を購入して、利用者数増加を図る」というように戦術的なものまで様々あって、質問者の意図を確実に掴まなければ、ちゃんとした答えになりません。今回は、私が考えている病院の方向性について、今まで語ってきたこととの重複を覚悟でお話してみたいと思っています。

　まず、方向性の基本の基本は理念にあるべきだと思います。当院の「誠愛なるリハビリテーション医療」という理念が、全ての方向性を決定する根幹でなければなりません。誠実で嘘偽りのない医療、そして慈愛や博愛に溢れたリハビリテーション医療を目指すことがスタートラインで、以下に続く全ての方向性は、これに沿ったものではなければなりません。

　理念の次に来るのは医療としての専門性です。私たちが提供するリハビリテーションは、従来から得意としてきた分野をさらに発展させるとともに、社会のニーズとともに変化していく必要があります。いつまでも同じ活動範囲内に留まっていては、地域社会から取り残されてしまいます。それを踏まえて、現時点における当院の専門性は脳卒中、高齢者の骨折、小児リハビリテーションが軸になります。脳卒中の中でも高次脳機能障害や摂食嚥下障害はとくに自信をもっている領域です。また、小児リハビリテーションは他施設が簡単に真似することのできないユニークな診療分野です。これからは、呼吸器、癌、循環器のリハビリテーションなど、新たな社会の要請に応えることも必要でしょうし、先進的なリハビリテーション、例えばリハビリテーションロボットや再生医療などにも積極的に関わって、常に時代の先端を走っていく覚悟も必要だと考えています。

　もう一つ、当院の強みとして私が力を入れたいと考え、また将来的にも育んでいきたいと思っているのが、心のケアです。一日にして体の片側が動かなくなったり話が全くできなくなることを想像してみてください。元気を出せという方が無理だと思います。新しく転院してきた病院がどんな所だろうという不安も強いでしょう。そんなときに、職員にゆったり、ふんわりと包み込まれ、プロとしての頼もしさで背中を押されたら、どんなに安心するでしょう。入院患者さんのもとへご挨拶に伺ったときに、「この病院の職員の皆さんはとっても優しくて、ここに来ることができて本当によかった」と言ってもらえた時、私はこの病院の院長であることを心から誇りに思い、スタッフの皆さんに感謝しています。

　ここから先は戦略的な話になりますが、ITの積極的な導入による業務の効率化・能率化、院内組織の改編、院内・法人内連携強化、地域の医療・介護機関との連携強化、地域に向けた広報活動など、やるべきことは山積みです。いつも言うように、私一人で考えることには限界があります。現場で仕事をしている人でなければ分からないこともたくさんあります。皆さんからの建設的な提案が必要だと強調しているのは、決してリップサービスではないのです。

　ここまで述べてきたような方向性をもとに、さらに細かな戦術を立てていくことになりますが、当院のサービスを利用してくださる患者さんが増えると必然的に職員の仕事量も増えてしまいます。だからこそ、業務の見直し、能率化・効率化が必須になります。ときには大胆に今までやっていたことをやめてみる勇気も必要です（もちろん、患者さんに直接的な迷惑が掛からないことが前提ですが）。業務量が増えたら人を増やすという解決策が一番手っ取り早いのですが、これに頼る癖のついた組織は、いつまでたっても、職員一人分の分け前（すなわち報酬）が増えません。何とか頑張って工夫して、その結果、「頑張ってよかった」と思えるような組織にしたいというのが私の願いです。

　まだまだ、語りつくせていないことが沢山ありますが、職員の皆さんからの提案を大切にしながら、患者さんにとってはもちろん、地域の医療・介護施設の職員や地域住民にとっても、そして職員にとっても魅力ある職場であることを目指していきたいと思いますので、これからもご支援・ご協力よろしくお願いいたします。